2018/3/19
卒業おめでとうございます。
卒業にあたり、旅立つ皆さんに私からメッセージを贈ります。
VUCA(ブーカ)と言う言葉を聞いたことがありますか。
VUCAとは、Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を合わせた造語で、
『現在の社会経済状況は予測することが困難だ』という意味を示す語です。
2016年のダボス会議では、人類が直面する世界現状を指す「VUCAワールド」という語が盛んに飛び交ったので、
知っている人がいるかもしれません。
VUCAの要因は、急増するテロや技術革新などさまざま考えられますが、私たちが従来の判断基準だけで未来を予測し、
物事を決定していくことが困難になってきていることは間違いないでしょう。
しかし、こうした現状にあっても、多くの人たちによって到来を予測された未来があります。
それは「シンギュラリティ」です。
本来の「シンギュラリティ」という語は「技術的特異点(基準から外れる点)」という意味ですが、
最近では「人工知能が人類の頭脳を追い越すポイント」という意味でよく使われています。
VUCAよりはむしろ「シンギュラリティ」の方がよく聞く語であろうかと思います。
10~20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、人工知能に代替することが可能だと言われ、
私たちの労働観は今大きく変化しつつあります。
こうした中で人工知能AI(artificial intelligence)に仕事を奪われるのではなく、
映画やアニメで描かれるポスト・シンギュラリティ時代のようにAIを搭載したロボットと人間が「共存」するためには、
どうしたらよいのでしょう。
何よりもまず、AIが奪えない領域、すなわち「人間だけが持つ豊かな感受性」をさらに育むことで、
私たち自身がより人間らしくある必要があります。
技術革新が進めば進むほど、「“人間らしさ”とは何か」を見つめ直すことになるのです。
しかし、皆さんには城北で培われた『人間らしさ(人間力)』があります。
これまでの学園生活を振り返ってみてください。
大町、研修旅行、体育祭、文化祭などのさまざまな学校行事で一緒に最高の思い出をつくったクラスの仲間たち、
クラブ活動や委員会活動を通してできた最高の仲間たちが、いつもそこにはいたはずです。
『人間らしさ』はこうした日常の中で育まれます。
保護者の方の存在はもちろん、かけがえのない友人や先生の存在が、皆さんを支え、
『人間力』を育む上での大きな原動力になっているのだと思います。
『論語』の子罕(しかん)には、
「歳(とし)寒くして、然(しか)る後(のち)に松柏(しょうはく)の彫(しぼ)むに後(おく)るるを知るなり」
という一節があります。
「歳寒(さいかん)の松柏」という慣用語で知られています。
「松柏」とは常緑樹の代表である松と柏のこと。
(カシワは、植物学的にはブナ科の落葉樹ですが、ここでのカシワはひのきの仲間としているようです。)
全体の直接的な意味は「寒くなってから他の植物の葉が枯れ落ちるなかで、はじめて松や柏が、
緑の葉をつけたままで残ることがわかる」という意味です。
皆さんが活躍する社会は、困難な課題がたくさんあることでしょう。
しかし、困難極める「歳寒」のときこそ、「松柏」同様にその人の真価はわかるものなのです。
逆境や苦難の時でも、『志』を失わないでください。
中学・高校という人生で最も多感な時期に培われた『人間力』は、日常生活ではもちろんのこと社会が危機的な局面になったときに、
必ずや発揮されることでしょう。
皆さんは間違いなく、この国の未来を担っていく人たちです。
様々な夢や希望の実現のために、目的意識を各自がしっかり持ち、日々努力を続ければ、明日はきっと、今日よりも良くなります。
悩んだり、苦しくなった時は、城北に来て下さい。
私たちはいつでも、皆さんを待っています。
城北中学校・高等学校 校長 小俣 力